建設業の電子契約|注文書・請書を電子化する法的要件と導入手順

建設業の電子契約|注文書・請書を電子化する法的要件と導入手順

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建設業の電子契約とは、建設業法19条3項にもとづき、相手方の承諾を得たうえで、注文書・請書や工事請負契約書を紙ではなく電子データでやり取りする方法です。国土交通省令で決められた技術的基準(見読性・原本性・本人性)を満たせば、紙に署名・記名押印して交付したものとみなされます。紙の契約書と違って印紙税もかかりません。この記事では、一人親方・建築業・職人さんの事務代行を行っているマッセが、国土交通省のガイドラインと法令の条文を確認しながら、電子化の要件、サービスの選び方、導入の手順、元請・下請それぞれの注意点を順番に整理します。

目次

建設業でも注文書・請書は電子化できる

ノートパソコンで契約書のPDFを確認する建設会社の事務スタッフ
Photo by Marek Levák on Unsplash

結論から言うと、建設工事の請負契約は、注文書・請書の形でも工事請負契約書の形でも電子化できます。ただし「メールでPDFを送れば何でもよい」わけではなく、建設業法と施行令・施行規則が決めた手順を踏む必要があります。

建設業法19条1項は、工事内容や請負代金などの事項を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付することを求めています。19条3項は、相手方の承諾を得て国土交通省令で定める方法をとれば、書面を交付したものとみなすと定めています。記載事項そのものは紙でも電子でも同じで、一覧は工事請負契約約款と建設業法19条の必須記載16項目の記事で整理しています。

国土交通省は2025年9月30日に「電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン」を施行し、平成13年からの「技術的基準」に係るガイドラインを廃止しました。古い解説記事を参考にするときは、この改定より前の内容かどうかに注意してください。また、通知「注文書及び請書による契約の締結について」(令和7年9月30日最終改正)は、注文書・請書を電磁的措置で交付する場合にも19条3項が適用されると明記しています。注文書と請書だけを電子にする場合も、次の承諾と技術的基準が必要です。

電子化の第一条件は相手方の事前承諾

電子契約を始める前に、相手方の承諾が必要です。施行令5条の5は、あらかじめ「講じる電磁的措置の種類及び内容」を示し、書面または電磁的方法で承諾を得ることを求めています。

示す内容は、施行規則13条の5により「措置の種類」(メールで送るのか、クラウドサービスで閲覧してもらうのか)と「ファイルへの記録の方式」の2つです。ガイドラインは、サービス名、契約書データの形式(PDFなど)、閲覧ソフトの形式やバージョン、電子署名やタイムスタンプの形式を示すことが望ましいとしています。承諾は書面のほか、メールやクラウドサービスでも取れます(施行規則13条の6)。実務では、これらを書いた承諾書を1枚用意し、取引先ごとに一度もらう形が扱いやすいです。

承諾がないまま電子で送ると、19条3項の「書面を交付したものとみなす」効果が得られず、書面交付をしていない扱いになるおそれがあります。相手が電子を望まないときは、紙で交わす選択肢を残しておきましょう。

技術的基準|見読性・原本性・本人性の3要件

タブレットに電子署名をする建設現場の監督
Photo by RONNAKORN TRIRAGANON on Unsplash

使う仕組みは、施行規則13条の4第2項の技術的基準を満たしている必要があります。中身は「見読性」「原本性」「本人性」の3つで、電子契約サービスを選ぶときのいちばん大事な確認ポイントになります。

要件条文の内容具体的な措置(ガイドラインの例)
見読性相手方が記録を出力して書面を作成できること(1号)画面や紙にすぐ整然と表示できる。契約成立後に自分の端末へPDFを保存しておくことが望ましい
原本性契約事項が改変されていないか確認できる措置(2号)公開鍵暗号方式による電子署名、タイムスタンプ、またはこれらと同等の方法
本人性相手方が本人であることを確認できる措置(3号)第三者機関の電子証明書の添付が望ましい。事業者署名型では2要素認証などが望ましい

見読性|いつでも画面や紙で読めること

電子データはそのままでは読めないため、画面や紙に速やかに表示できる状態にしておきます。クラウド上の記録は自社の端末に残らないこともあるので、契約が成立したらPDFを自社でも保存しておくのが望ましいとされています。

原本性|改ざんされていないと確認できること

建設工事の契約は金額が大きく工期も長いため、改ざんがないと確かめられることが重視されています。電子署名やタイムスタンプが必要で、PDFをメールに添付するだけでは満たすのが難しいと考えてください。

本人性|なりすましを防げること

対面しない電子契約では、第三者のなりすましが起こりえます。当事者が自分の電子証明書で署名する方式なら、第三者機関が発行した電子証明書を付けることが望ましいとされています。

立会人型(事業者署名型)のサービスを使うときの条件

クラウド型サービスの多くは、事業者の署名鍵で署名する「事業者署名型(立会人型)」です。新しいガイドラインは、事業者の意思が入る余地がなく利用者の意思だけで機械的に暗号化されるサービスを使うこと、本人性の対策に2要素認証などを使うことが望ましいことを示しています。

電子契約なら印紙税がかからない

紙の請負契約書や注文請書は印紙税の課税文書ですが、電子データでやり取りした場合は印紙税がかかりません。印紙税は紙の文書を作成したときにかかる税金だからです。

福岡国税局は平成20年10月24日の文書回答で、注文請書を電磁的記録にして電子メールで送信した場合について、紙の現物を交付しない限り課税文書の作成にあたらないという照会者の見解のとおりで差し支えないと回答しています。ただし、照会された事実関係が前提です。また、電子で締結したあとに同じ内容の請書を紙で署名・押印して渡すと、その紙が課税文書になる可能性があります。電子で締結した契約は電子で完結させるルールにしておきましょう。

建設業向けの電子契約サービスの選び方

複数の電子契約サービスを比較検討するミーティング
Photo by Headway on Unsplash

価格より先に「技術的基準を満たせるか」と「取引先が無理なく使えるか」を見ます。職人さんや一人親方が相手の建設業では、相手側の負担の軽さが定着を左右します。

判断基準1|建設業法への対応を明示しているか

電子署名、タイムスタンプ、2要素認証があり、建設業法の電子契約に使えると案内しているかを見ます。はっきりしない場合は、3要件をどう満たすのかを導入前にメールで確認しておくと安心です。

判断基準2|相手側がアカウントなしで署名できるか

受け取る側が無料で、メールのリンクから署名できるかは大きな差になります。事務代行の現場でも、スマホだけで手続きを終えられるかどうかで、取引先への広げやすさが変わると感じます。

判断基準3|料金体系と保存・検索の機能

月額固定か送信件数ごとの従量課金かで、注文書の枚数によって負担が変わります。検索や、解約時に備えたPDFの一括ダウンロードができるかも確認してください。最新情報は各サービスの公式サイトでご確認ください。

サービス提供会社特徴こんな会社向け
KANBEI SIGN株式会社Wiz補助金を活用した導入の相談ができるとして案内されている電子契約サービス補助金の活用も含めて導入を検討したい中小の建設会社
クラウドサイン弁護士ドットコム株式会社立会人型の代表的なサービス。導入企業が多く、取引先が使い慣れている場合がある取引先の多くがすでに使っている元請
電子印鑑GMOサインGMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社立会人型と当事者型(電子証明書)の両方に対応金額の大きい契約だけ当事者型にしたい会社
CI-NET対応のサービス各社建設業界の電子商取引の標準規格に対応し、見積から契約・請求まで扱える大手ゼネコンとの取引で指定されている会社

建設業法の要件を満たすかは使い方や設定でも変わります。マッセでは、まず取引先がすでに使っているサービスを聞き、なければ受け取る側の負担が軽いものを候補にする順番をおすすめしています。補助金を使った導入も検討したい場合は、KANBEI SIGNの公式サイトで対応状況や料金を確認してみてください。

IT導入補助金(デジタル化・AI導入補助金)を使う場合

中小企業庁の資料では、令和7年度補正予算の事業からIT導入補助金は「デジタル化・AI導入補助金」に名称が変わっています。対象は事務局に登録されたITツールで、枠や時期は公募回ごとに異なり、交付決定前の契約は対象外になるのが一般的です。対象かどうかは契約前に公式サイトで確認してください。

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電子契約の導入手順

導入は「書式を整える」「承諾をもらう」「運用ルールを決める」の順で進めると、途中で止まりにくくなります。小さな会社なら、1〜2か月を目安に段階的に切り替えるのが現実的です。

ステップ1|今の契約書・注文書の書式を棚卸しする

基本契約書・注文書・請書・約款を確認し、「記載のない事項は基本契約書(約款)による」の一文や、19条1項の記載事項の抜けを電子化の前に直しておきます。

ステップ2|サービスを選んで社内で試す

候補を1〜2つに絞り、試用期間があれば社内同士で送受信を試します。署名の流れやPDFの保存を、実際に事務を担当する人が確認してください。

ステップ3|承諾書のひな形を作る

使うサービス名、措置の種類(クラウドサービスで閲覧・保存してもらう等)、ファイル形式(PDF)、閲覧に必要なソフト、電子署名・タイムスタンプの形式を書いた承諾書を作ります。承諾の欄には日付と会社名・担当者名を入れてもらいます。

ステップ4|取引先に説明して承諾をもらう

取引の多い相手から順に説明して承諾をもらいます。費用の有無とスマホで署名できるかを最初に伝えると話が進みやすく、承諾書は契約書と同じ場所に保存します。

ステップ5|1件目を電子で締結して流れを確認する

最初は金額の小さい注文書・請書で試し、完了後のPDFに電子署名やタイムスタンプが付いているかを確認します。

ステップ6|保存と変更契約のルールを決める

締結済みPDFは工事ごとのフォルダに「工事名_日付_相手先」で保存し、工期や金額の変更契約も電子で交わす流れにしておくと、紙と電子が混ざりません。

元請・下請それぞれの注意点

建設現場で打ち合わせをする元請と協力会社の担当者
Photo by Glenov Brankovic on Unsplash

電子契約は、送る側(主に元請・注文者)と受け取る側(主に下請・請負者)で気をつける点が違います。どちらの立場でも、紙のときと同じく、工事の着手前に契約を交わすことが前提です。

元請(注文者)側|一方的に押しつけない

承諾が前提なので、電子化を取引条件として強制したり、承諾しない相手を不利に扱ったりするのは避けます。施工体制台帳での扱いは、国土交通省の「電子契約を行った場合の施工体制台帳の取扱いに関するガイドライン」で確認してください。

下請(請負者)側|内容を確認してから署名する

電子はボタン一つで署名できるため、約款や支払条件を読まずに進めがちです。代金、工期、支払時期、追加工事の扱いを確認してから署名し、締結後のPDFは自社でも保存しておきましょう。

保存期間と電子帳簿保存法

建設業者は営業所ごとに帳簿を備え、契約書の写しなどの添付書類とともに保存する必要があります。保存期間は施行規則28条により、工事の目的物を引き渡してから5年間(発注者と締結した住宅を新築する工事は10年間)です。電子で受け取った契約書は電子帳簿保存法の「電子取引」にあたるため、紙に印刷して保存するのではなく、電子データのまま検索できる形で保存するのが原則です。具体的な保存要件は国税庁のサイトでご確認ください。

よくある失敗とトラブル対処

起きやすいのは、法的な手順の抜けと社内運用の混乱です。

よくある失敗起きること対処
承諾を取っていない19条3項の効果が得られず、書面交付をしていない扱いになるおそれ承諾書をもらい、以後の契約から電子にする
PDFをメール添付しただけ原本性・本人性を満たせない可能性電子署名・タイムスタンプのあるサービスに切り替える
紙でも同じ請書を渡した紙の請書が課税文書になる可能性電子で締結した契約は紙を発行しないルールにする
相手側の署名が止まっている着工までに契約が成立しないリマインド機能や電話で、届いたメールを確認してもらう

署名依頼のメールが相手に届かない

アドレスの打ち間違い、相手の迷惑メールフォルダの順に確認し、それでも届かなければ送信履歴を見て別のアドレスで送り直します。

締結後に内容の誤りに気づいた

締結済みの電子契約書を直接書き換えることはできません。誤りが個別の記載事項(金額や工期など)だけなら変更の注文書・請書を、それ以外も含むなら変更契約書を、改めて電子で交わします。元の契約書は削除せずに残しておきます。

よくある質問

スマートフォンで書類を確認する職人
Photo by Valerie V on Unsplash

Q. 建設工事の請負契約は電子契約にしてもよいのですか?

A. はい、建設業法19条3項で認められています。相手方の事前承諾と、見読性・原本性・本人性の技術的基準を満たすことが条件です。

Q. 注文書と請書だけを電子でやり取りしてもよいですか?

A. 国土交通省の通知が定める注文書・請書方式の要件を満たしていれば可能です。その場合も19条3項が適用されるため、承諾と技術的基準が必要です。

Q. PDFをメールで送るだけでは足りませんか?

A. 足りない可能性が高いです。改ざんの有無を確認できる電子署名やタイムスタンプなどがないと、原本性の要件を満たすのが難しいためです。

Q. 電子契約にすると印紙は不要ですか?

A. 電子データのみでやり取りした場合、印紙税はかかりません。ただし同じ内容の紙の契約書を別に作って交付すると、その紙には印紙税がかかる可能性があります。

Q. 承諾は取引のたびに必要ですか?

A. 電子契約の前に承諾を得る必要があります。実務では取引先ごとに一度もらい、サービスや方式を変えるときに取り直します。

Q. 一人親方との契約も電子にできますか?

A. できます。承諾が前提なので、スマホで署名できるか、費用がかからないかを先に伝えてください。

まとめ|承諾書と書式の見直しから始める

建設業の電子契約は、相手方の承諾と、見読性・原本性・本人性を満たす仕組みがそろえば紙と同じ扱いになります。印紙税や郵送の手間は減りますが、紙と電子を混ぜない運用や保存のルールを決めないと、かえって事務が増えます。まずは注文書・請書の書式を見直し、承諾書のひな形を作るところから始めてみてください。

マッセでは、一人親方・建築業・職人さんの事務代行として、契約書や安全書類の整理もお手伝いしています。電子化の準備で手が回らないときは、お気軽にお声がけください。

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